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伝えたい気持ち、わかりたい気持ちがあれば、
異なる言語の人ともコミュニケーションが取れるし、
世界はおもしろくなっていく。
板橋弥央×奥村泰人×鈴木ぱんだ×菊地浩輔インタビュー
座・高円寺の螺旋階段。赤い壁に白い丸のライトが無数についた印象的な内装。踊り場で板橋さんとぱんださん、菊地さんと奥村さんがそれぞれの人差し指を交差させ、「交差」を手話で表している
​2026.03.29

ろう者の役者5名、聴者の役者5名が出演した異言語イマーシブシアター『交差』。参加者にも、ろう者、難聴者、手話ができる聴者、手話ができない聴者、国際手話なら理解できる外国人など多様な人が集まっていました。役者のみなさんは演技をするうえでどんな工夫をしたのでしょうか。そして、稽古や本番を通して何を感じたのでしょうか。時空探偵団団長役の板橋弥央さん、記者役の奥村泰人さん、市長役の鈴木ぱんださん、秘書役の菊地浩輔さんに語ってもらいました。

 

(取材・文:飛田恵美子 撮影:神明篤志/飛田恵美子)

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それぞれが『交差』に参加した経緯

『交差』のキービジュアル。10人の男女を俯瞰で撮影した写真。

手話と音声を使った謎解きゲームを制作してきた異言語Lab.(代表:菊永ふみ)が、「手話のまち 東京国際ろう芸術祭2025」に合わせて初開催した異言語イマーシブシアター『交差』。イマーシブシアターとは、観客が演者と同じ空間を動き回り、物語の世界に入り込む没入型演劇のこと。手話と音声が交錯するイーゲン市で起きた市長暗殺事件を防ぐため、時空探偵団の新人探偵である参加者は過去にタイムスリップして調査を行います。

――まずは自己紹介として、普段の活動と手話歴を教えてください。

 

板橋:仕事は5つほどしています。1つめがイベント等の司会。2つめが『男組』というコメディ手話劇団のメンバー。3つめは、母が台湾人なので、台湾に関する情報発信や講演を行なっています。4つめが手話監修や講師。5つめが、それらをひっくるめた役者としての活動です。親もろう者なので、手話を母語として育ちました。

手話で話す板橋さん

市長暗殺事件を防ぐため、時空探偵団の団員を率いて過去にタイムスリップする団長役を演じた板橋さん(ろう者)

奥村:役者として舞台やテレビに出演しています。また、「ろう者のあるある」をネタにしたお笑いコンビ『デフW』としても活動しています。

 

僕の両親は聴者ですが、手話で育ててくれました。親が聴者で子どもがろう者の場合、音声言語を習得させようとすることが多いと思います。うちの親も僕がろう者だとわかったときは悩んだけれど、お医者さんから「大丈夫、手話がありますよ」と言われたそうです。「筆談だってあるし、補聴器や人工内耳を選ぶ人もいるし、自由に選択していい」と励まされ、手話でコミュニケーションを取ることを選んだと聞いています。音声で育てられていたら、役者の仕事はしていなかったかもしれません。

手話で話す奥村さん

イーゲン市の再開発問題を追う新人記者・ペン役を演じた奥村さん(ろう者)

菊地:吉本の芸人として漫才をしながら、手話とお笑いを組み合わせた『よしもと手話ブ!』の部員としても活動しています。手話を始めたのは7年くらい前かな。ある企画で、ダンス教室に通っている娘とお友達にも舞台に出てもらったんです。そのお友達のお父さんが難聴者で、舞台を観に来てくれたものの、どこまで楽しんでもらえたのかわからなくて。それで、手話を使った漫才をしてみようと思いました。手話を教えてくれる人を探すうちに、後に『よしもと手話ブ!』を立ち上げる芸人と知り合い、部員になりました。

手話を使って話す菊地さん

イーゲン市長の右腕として活躍する秘書・コウ役を演じた菊地さん(聴者)

ぱんだ:舞台俳優として、最近はイマーシブシアターを中心に出演しています。20年ほど前までは学校の先生をしていましたが、やりたいことをやろうと思い芝居を始めました。手話歴は0年です。

笑顔のぱんださん

イーゲン市の未来のために尽力するモーリス市長を演じたぱんださん(聴者)

――ぱんださん、菊地さんが『交差』に参加しようと思った理由を教えてください。

 

ぱんだ:イマーシブシアターの情報を探していて、オーディションの情報を見つけたんです。「手話でイマーシブシアターなんて聞いたことないな」と思いましたが、「おもしろそう」が勝ち、オーディションを受けました。

 

菊地:僕はもともと知り合いだった板橋くんから、「合いそうな役があるよ」と教えてもらったんです。でも、手話を使った演劇なんて初めてだし、演技の経験も少ないのでオーディションのときは緊張しました。

板橋さん、奥村さん、ぱんださん、菊池さんの「交差」における宣材写真
板橋さん、奥村さん、ぱんださん、菊池さんの「交差」における宣材写真
板橋さん、奥村さん、ぱんださん、菊池さんの「交差」における宣材写真
板橋さん、奥村さん、ぱんださん、菊池さんの「交差」における宣材写真

撮影:高橋航生

――奥村さん、板橋さんは以前から異言語Lab.で活動していたのですよね。

 

奥村:僕は異言語Lab.が立ち上がったばかりの頃に仲間入りして、演者として何度も機会をいただいてきました。あるとき代表のふみさんからイマーシブシアターという言葉を教えられ、「何それ?」と思いつつ薦められるままに日本中のイマーシブシアターに足を運ぶようになり、本場イギリスの公演にも参加したんです。そうしたらめちゃくちゃおもしろくて! 

 

帰ってきてから「イマーシブシアターはすごい!」と力説していたら、ふみさんが「私たちもやるからね」と(笑)。イマーシブシアターって、聴者、それも大きな団体が開催しているイメージだったから、「異言語Lab.でイマーシブシアターなんて本当にできるの?」と驚きました。でも、気づけば実現していましたね。

 

板橋:僕は2018年頃に異言語Lab.の公演に司会者として参加して、「これまで自分が経験したことがない世界だ」と思いました。いまはだいぶ選択肢が広がりましたが、当時はろう者が楽しめるライブエンタメはかなり少なくて、僕自身お笑いや手話狂言以外の観劇体験はあまりなかったんです。音声と手話が交わる謎解きゲームなんていうものが可能なんだ、と新鮮に感じました。そのうちに、奥村くんと同じようにふみさんからイマーシブシアターをおすすめされて観に行くようになり、『交差』に誘われました。

ステージ前で、10人の役者が衣装を着て並んでいる

イマーシブシアターは、役者も全体像を把握するのが難しい

 

――台本を読んでどんな感想を抱きましたか?

 

板橋:いつもの公演と違って、会場のあちこちで物語が展開していて、役者自身もその全部を見ることはできない。初めてのことだったので一体どういうふうになるのかまったくわかりませんでした。

 

奥村:最初に台本を手に取ったとき、ページをめくってもめくっても終わらないから、「なんだこれは、どれだけ長い演劇なんだ!?」と勘違いしました(笑)。その後、複数の場所で同時に物事が進行しているんだと気づいて、自分が登場するところだけ抜き出した台本を用意して元の台本と見比べ、なんとか全体像を把握しようと工夫しました。

 

菊地:そう、ほかの場所で何が起こっているのかわからないんですよね。最初は混乱したけど、途中から「自分に関係するところだけに集中しよう」と割り切りました。

座談会中の4人。菊池さんをほかの3人が笑顔で見ている。

ぱんだ:この台本で一番難しい役どころは記者役と秘書役だったと思います。2人ともゲストと一緒にあることをする場面があるけど、回によって参加者が持ってくる情報が違って、その場で臨機応変に対応しないといけない。

 

奥村:そうなんです。これまでも異言語Lab.の公演では、参加者の行動によって脱出成功/失敗と結末が変わって、それに応じた演技をしてきました。だから、台本を読んで「これまでの経験があるからこの役が割り振られたんだろうな」と思ったんです。

 

でも、今回はほかの場所で何が起きたのか把握できないし、参加者が持っている情報も一律じゃない。参加者が言ってきたことに対して、「なんでこうなったんだ!? どうすればいいんだ!?」と短時間で頭をフル回転させて考えました。大変だけど、すごくおもしろかったです。

 

稽古現場では、ろう者も聴者も混ざり合って話をしていた

演出の數見さんの手話をほかのメンバーが輪になって見ている。

稽古風景。

――稽古はどんな雰囲気でしたか?

 

ぱんだ:聴者の感覚では、現場が賑やかだと「コミュニケーションが活発なんだな」と感じます。でも、『交差』の稽古現場はとても静かで、それなのにむっちゃ賑やかで、むっちゃフレンドリー。初めての感覚でおもしろかったです。

 

菊地:そうそう、僕も初めて手話漫才をしたときそのギャップを感じました。静かだから「ウケてるのかな」と不安になって客席を見るとめっちゃ盛り上がってくれていて、ほっと胸を撫で下ろす、みたいな。この感覚は、慣れるまでに少し時間がかかりますよね。

 

奥村:今回、ぱんださんや林さんは「手話を知らない聴者」という役だったから、「手話に慣れない方がいい演技になるのかな」と思い、筆談をしたり、ジェスチャーをしたりと、最初は手話で話しかけるのを控えていました。

稽古風景。ステージに座った奥村さん、板橋さんが數見さんと話している。

ぱんだ:僕自身はみんなとコミュニケーションを取りたくて、手話を見ながら「こういう意味なんだな」と少しずつ覚えていきました。でも、そうすると奥村くんが言っていたように本番で参加者の手話が読めちゃうことがあって。市長は手話ができない設定だから、「反応しちゃダメだ」と自分を抑えるのに必死でした(笑)。

 

奥村:そうそう、ぱんださんはろう者の輪に入って、手話をずーっと見ていたんですよ。「あれ、手話が理解できているのかな?」と思うくらい。それでよく見ると、手話を真似して手を動かしたりしている。覚えようとしてくれているんだな、と嬉しくなりました。これまで聴者と仕事をするときは、休憩中にろう者と聴者に分かれて会話することが多かったけど、今回はかなり混ざり合っていましたね。お互いの言葉がわからなくても目を合わせてやりとりできたから、安心感や感動がありました。

稽古風景。菊池さんが手話で話し、それをぱんださんが見ている

ぱんだ:普段は菊地くんや手話通訳士さんが間に入ってくれたけど、一度、BAFUROさんと僕だけで数分間会話したことがあるんです。「愛媛出身なんですね、僕はうどんの香川です」みたいに。その様子を見て、かずみさんが「手話で会話してるやん!」と驚いてました(笑)。

 

菊地:稽古には基本的に手話通訳士さんもいてくれたので、僕はこっそり通訳の勉強をしていました(笑)。みんなが喋ったことを手話通訳士さんが手話で表現するときに、「なるほど、この単語はこう表現するとうまくハマるんだな」と。

 

板橋:僕は普段手話ができる人と活動することが多いので、今回の現場は新鮮でした。でも、積極的にいろんな人に声をかけるなかで、手話ができない聴者が相手でも、「伝えたい」という気持ちがあれば筆談や身振りでいくらでも伝えられるし、相手に合わせてどうすればいいか考えればいいんだ、と気づいたんです。手話通訳士さんがいなくてもやりとりできるというのは、自分の中では大きな発見でした。だから本番でも、手話ができない参加者に対して目で伝えるということができました。

稽古風景。板橋さんが観客に手話で問いかけている

――今回、手話ができないぱんださんはどちらかというとマイノリティだったと思います。疎外感を感じる場面はありませんでしたか?

 

ぱんだ:まったくなかったです。こんなにおもしろい人たちが揃っているのに大人しくしていたら損をすると思って自分から話しかけたし、みんなちゃんとコミュニケーションを取ってくれたので。結局は人対人なんだな、と思いました。

 

菊地:本番が終わってみんなで飲んだときに、板橋くんがぱんださんの肩に腕を回して喋っていて、「うわ、いい光景だな」と思いました。

​​ぱんだ:そうそう、そのとき僕は間違った手話をしちゃったんだけど、板橋さんはすぐに言いたいことを理解してくれたんですよ。「コミュニケーションってこういうことだな」と思いました。

 

板橋:4か月も一緒にいたら、なんとなく言いたいことが掴めてくるんですよね。

 

菊地:ぱんださんは表現者だから伝える力があるし、ろう者のみなさんは読み取る力があるんですよね。伝える力と読み取る力が合わさって、短期間で通じ合えるようになったのかなと思います。

稽古風景。手話で話す菊地さんの横顔

奥村:付け加えると、シンプルに伝えたい気持ち、わかりたい気持ちが強かったということもあると思います。出演者だけでなくスタッフも含めて、お互いを理解したい、コミュニケーションを取りたいという気持ちがあったから、毎回の稽古がいい雰囲気になったんじゃないかな。

 

板橋:それは異言語Lab.の文化でもありますよね。音声言語が基本で、そこに情報保障として舞台手話通訳をつける公演はたくさんあるけど、異言語Lab.では、音声言語と手話、耳で聞く言語と目で見る言語が共にあるような公演をつくっている。どちらかが補助ではなく、両方が主役。そうした世界観が『交差』でもきちんと表現されていたと思います。

稽古風景。數見さん、菊永さんが手話で話し、それを役者が見ている

異言語Lab.代表で『交差』監督の菊永ふみさん(右)、演出の數見陽子さん(左)

――稽古中はみんなで演出を提案しあっていましたね。

 

菊地:僕がこれまで経験した現場では、演出家が「こうして」と指示を出して役者が従う形でしたが、今回はひとつひとつのシーンをみんなで「ここどうする?」と考えてつくり上げていたので新鮮でした。

 

板橋:それぞれが持っている武器を持ち寄った感じですよね。たとえば、団長が時を止めるときの動き。最初はただ手を前に出すだけのよくある動きだったんですが、みんなで好きな動きを披露しあって、最終的にいまの形になりました。先日、この公演に参加してくれた人に会ったとき、「あ、時を止めた人ですね」と動きを再現されたんです。それだけ印象に残る動きになったということだと思います。

 

奥村:これまでに例のない公演だから、メンバー全員の多様な視点や経験や発想を取り入れていこうという姿勢がありましたよね。進め方なども含めて、「みんなどう思う? このやり方で違和感ない?」と一つひとつ確認していて。なんでも言い合える環境だったから、すごく楽しかったです。

多様な参加者の注意をどうやって引くか

 

――イマーシブシアターとこれまでの演劇との違いは感じましたか?

 

板橋:普段の舞台では、遠くからでも見えるように大きく手話をするし、体も客席に向けます。でも、イマーシブシアターでは、参加者はどこにでもいるし、距離も近い。だから、体をどこかに向ける必要はなく、自然に手話でやりとりできるんです。ただ、自然な動作でどうやって参加者を自分に引きつけるか、という新たな課題に直面しました。

 

奥村:板橋くんは司会の仕事も多いから、わかりやすく情報を提供しようとする癖があるんですよね。でも、団長の役割は情報提供ではなく、自分に引きつけないといけない。参加者が自分で考える時間を意識して待つといいんじゃないか、という議論をした覚えがあります。

 

板橋:そうそう、これまでずっとお客さんを待たせないことを意識していて、それが「板橋の司会はわかりやすい、安心して楽しめる」という評価につながっていたんです。今回はこれと逆のことをしないといけなかった。「言いたい、早く安心させてあげたい、次に行きたい」という気持ちをぐっと堪え、間を取るようにしました。参考にしたのは、『水曜日のダウンタウン』の名探偵津田コーナーに出てくるアシスタントの振る舞いです(笑)。

稽古風景。板橋さんと數見さんが手話で話している

――ろう者の役者に聴者の参加者がついてきたり、聴者の役者にろう者の参加者がついてきたり、本番ではさまざまなシチュエーションがあったと思います。コミュニケーションや情報伝達において工夫したことはありますか?

 

ぱんだ:聴者の参加者の注意を引くには大きな声を出せばいいけど、ろう者の参加者にはそれができません。「いま自分に注目してほしい」というタイミングで参加者が自分を見てないときにどうするか。それで、いきなり動いたり近づいたりしてギョッとさせて、自分に目を向けてもらうことを意識していました。

 

奥村:僕の役はしばらく話さないんですよ。だから、手話で話しはじめたときに、聴者の参加者が「あっ、この人ろう者なんだ」と驚くんですね。それって日常生活でもよくあることで、聴者が道を聞いてきたときに同じ反応をされることがあります。普段の体験、「ろう者あるある」をそのまま演技に生かすことができました。

稽古風景。何かを差し出すような仕草をする奥村さんと、受け取る仕草をするぱんださん

――イマーシブシアターは参加者が自由に歩き回りますよね。ろう者と聴者では感覚も少し違うのではないかと思うのですが、ぶつかりそうになることはありませんでしたか?

 

菊地:市長と僕が移動したいんだけど、人がたくさん集まっていて歩きづらい場面があって。そのときは「通るぞ」と気持ちを強く持って、ドンドンドン、と床を踏み鳴らして歩くようにしました。これは共演者の林さんから教えてもらったことです。

 

奥村:ろう者は注意を引く手段としてよく振動を使うけど、聴者も含めいろんな人に効果があるものなんですね。いま聞いていてなるほどなと思いました。

 

菊地:それに、ろう者は視野が広いですよね。板橋くんと一緒に道を歩いていて、後ろから車が迫っていたんだけど、僕は手話に集中していて気づかなかったことがあったんです。そしたら板橋くんがさっと引き寄せてくれて、キュンとしました(笑)。本番中も、ろう者の参加者は周りをよく見ていましたね。

本番中の写真。南雲さん、奥村さんをたくさんの参加者が囲んでいる

奥村:ろう者は普段から目で見て判断しているから情報を掴むのが早いし、「こっちから人が来るな」という予測も得意なんですよ。情報の取得方法が聴者とは違うんだと思います。

 

ぱんだ:さっき菊地さんが話してくれた場面で、僕は一番後ろの人に「通りますよ〜」とアピールするようにしていました。そうすると、人から人へどんどん伝わっていって自然と道ができるんです。でも、それってろう者のみなさんの視野が広いからスムーズに進んだのかな、といま気づきました。聴者は目と耳の両方から情報が入ってくる分、一つひとつの情報が埋もれやすい。ろう者は視覚情報からすぐに「あ、どかないと」と理解してくれたように思います。

楽しそうに話すぱんださんと、それを見る菊地さん

菊地:でも一度、本番中にすごいことがあって。時空探偵団のリストバンドをしている人は役者から見えない設定なんですが、市長が死ぬのを防ぐために、リストバンドを破り捨てて立ちはだかろうとしてきたろう者がいたんです。「それはダメだろ!」と思わず反応しちゃいそうになりました(笑)。それだけ物語に没入してくれたんでしょうね。

 

どうすれば伝わるか考えた経験が、日常に活きるかもしれない

 

――市長の暗殺を防ぐことに成功した回は、失敗した回と比べて、ろう者と聴者が協力する場面が多かったと思いますか?

 

ぱんだ:そうなんじゃないかな。イマーシブシアターに初めて参加する人は、「いろんな場所でいろんな出来事が起こっている」という認識がないから、「こんな小さな情報伝えなくてもいいか」と遠慮してしまうんですよね。でも、その遠慮が外れた途端、僕の生存ルートにどんどん進んでいく。成功した回では一体感がありましたね。

 

奥村:手話話者だけがわかっている、音声話者だけがわかっている情報があって、それをどう融合していくのかが『交差』のポイントです。最初は戸惑っていた参加者同士が徐々に積極的になっていく様子に感動しました。

手話で話す奥村さん

板橋:時空探偵団のみんなが集めた情報を共有しあう場面では、手話がわからない聴者も積極的に手を挙げて発言してくれました。そういうことを積み重ねていくと、市長は死なずに済むんですよね。

 

僕自身、参加者に声をかけたら手話ができない人で、筆談でやりとりをした場面がありました。聴者もろう者も外国人もいろんな人が集まっているなかで、役者も参加者も、どうすれば相手に伝わるかを一所懸命考えたんじゃないかと思います。その経験が、日常に戻ったときに活きてくるかもしれない。「あのとき伝わったから、今回も工夫して伝えよう」って。そういう世界になるといいな、と思いました。

手話で話す板橋さんと、それを見る奥村さん

ぱんだ:本当にそうですね。『交差』に役者として参加したことで、これまでの舞台はいろんな人に優しくなかったな、と反省もしました。僕のパントマイムの師匠は、舞台に手話通訳をつけているんですよ。パントマイムだから音声は使わないのに、それでも手話が必要だと考えて手配している。そういう配慮や調整がもっと必要なんだと思います。

 

菊地:よく、「字幕があれば手話通訳は必要ないでしょ」と言われますよね。僕も最初はそう思っていました。でも、日本語と日本手話は違う言語だから、母語による情報保障があった方がより楽しめる。ろう文化に触れて、そういうことがわかってきました。

手話を使って話す菊地さんの横顔

異なることを怖がらず、楽しんでほしい

 

――最後に一言ずつ、メッセージをお願いします。

 

菊地:ろう者と聴者が交差すると、言葉が通じなかったり、意味が間違って伝わってしまったりすることがあって、そういう日常をミステリーの形に落とし込んだのが『交差』という作品だと思っています。そして、『交差』の本番で起きることは、いま世の中で “多様性”と呼ばれているもののひとつの成功例なんじゃないかな。「市長を生かしたい」という想いのもとに、ろう者も聴者も垣根を超えて、お互いに意見を出し合っていましたよね。こういうことが現実社会でもできればいいな、と本当に思います。

 

これまで交わらなかったものが、いろんな言語や文化が交わることで、お互いを理解しようという気持ちや、理解できたという喜びが生まれる。これは日常の隣にあるものをわかりやすく伝えたもので、もう演劇という枠を超えていて……何が言いたいかというと、ふみさんは天才です(笑)!

座談会の様子。楽しそうな4人

板橋:『交差』は、一般的な演劇とも違うし、謎解きとも違うし、コミュニケーションがないと成り立たない、これまでにない作品だったと感じています。なんというか、新感覚。今後こういうことができるのかわからないけど、本当にすごいものができたんじゃないかな。二度とない経験だと思います。

 

ぱんだ:AIでなんでもできる時代になってきましたよね。映像もつくれちゃうから、役者も必要なくなるかもしれない。その分、人と人とがコミュニケーションを取るという、アナログな経験の価値が高まると思っていて、イマーシブシアターには可能性を感じています。『交差』はさらに、自分とは異なる言語の人とやりとりするところがおもしろい。異なる言語、異なる文化、異なる価値観の人と接することで得られるものってたくさんあるから、自分の世界に閉じこもらずいろんな人とコミュニケーションを取ってほしいな、と思います。

本番中の写真。菊地さんが中央に立ち、椅子に座った参加者が手を挙げている

奥村:2023年から1年半フランスに演劇留学したのですが、駅員さんや店員さんに「僕ろう者なんです」と言うと、みんな「うんうん、それで?」という反応でした。フランスは昔からいろんな国の移民を受け入れているから、文化も価値観も多様だし、街中でもいろんな言語が飛び交っています。だから、ろう者であることが特別視されない。一方、日本はやっぱり島国だから、自分と異なる人が怖いんですよね。「ごめんなさい、わからないんです」と必要以上に恐縮してしまう。

 

そうしたなかで、異言語Lab.は異なる言語、異なる世界を楽しむエンタメをずっとつくってきたわけだけど、『交差』は格別です。日常の一部を演劇に変えただけ、という気がする。だから、『交差』に参加して楽しかったという人がいたら、「実は日常にもこれがあるんだよ」と伝えたいです。

 

異なることを怖がらなくていい、すれ違うこともあるかもしれないけど、伝えたいという気持ち、わかりたいという気持ちがあれば大丈夫。そういう気持ちを持ち続けていけば、この世界はおもしろい方に変わっていくんじゃないかと思います。

お互いの肩に手を乗せ、こちらに笑顔を向ける4人
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